西林克彦(2005):わかったつもり -読解力がつかない本当の理由、光文社新書222

概要

著者
  • 西林克彦/宮城教育大学教授
主な対象読者
  • 一般
概要
  • 認知心理学の観点から、文章を深く読むための障害とそこから抜け出す方法について解説
背景・考え方
  • 文章を批判的に読み、かつ記述できる能力が社会では必要で、そのためにはよりよく読めることが必須
ポイント
  • 文章を全体的に理解できたつもりでも、文章の部分間の関連性を適切に理解していないと、正しく読めないことがある。部分間の関連性・緊密性をより正しく理解することが、「よりわかる」ことにつながる
  • 文章の部分間の関連付け・緊密化においては、文中にない知識(客観的事実)や、想定・仮定(解釈)を導入してよい。この場合、他の部分と矛盾がないように、全体の整合性を保つ必要がある
  • 文章の理解には、「文脈」(何の話か/背景・状況)と、それに発動される「スキーマ」(暗黙の知識)がはたらく。文脈が変われば、発動されるスキーマも異なり、文章の理解が変わってくる
  • 文脈とスキーマの例
    • スキーマの例: アイロンの効用は、アイロンをかけるとシャツがきれいになること
    • 文脈1: サリーがアイロンをかけたので、シャツはきれいだった
       ⇒ スキーマから理解可能
    • 文脈2: サリーがアイロンをかけたので、シャツはしわくちゃだった
       ⇒ スキーマだけでは理解できないので、「サリーがアイロンがけが下手だという仮定」を文脈に導入する
  • 文章全体の雰囲気(大雑把な文脈)が、それに都合のよい「部分」の意味を引き出し、それにより読み間違い、読み飛ばし、書いていないことが書いてあるように思う。大雑把な文脈には、 部分に焦点が当たる新たな文脈を導入する(文脈の交換という)
  • ステレオタイプのスキーマ(鶴の恩返し、勧善懲悪、環境問題の人間悪玉論、ほか)に引きずられると、誤った読み方になることがある

この本の出版は20年前だが、増刷を繰返し、今でも継続的に売れているらしい。
一般読者が対象だが、説明や事例が分かりやすく、中学生でも容易に読むことができる。

文章の読解の仕組みと、「間違った読み」がなぜ起こるかがよくわかる。
読解力を強化したい人は読んでみてほしい。

読解力の強化という観点から、本書のポイントをあげてみる。

  • 認知心理学による読解の仕組みを理解しておくことは、国語力の向上に役立つ。
  • 文章の読解では、「文脈」を捉え、文脈から発動される「スキーマ」が要求される。このため、ものごとの常識スキーマを頭の中に多く蓄積しておくことが重要となる。
  • それらは、日常の体験、読書、国語以外の学習など、様々なことから学ぶべきものである。つまり、国語力の向上には、幅広いものごとに興味・好奇心を持って接することが重要である。
  • 国語力はすべての学習の基盤であるが、逆に、国語以外の学習や体験が、国語力に影響しているといえる。

(以上)